創意工夫とこまやかなおもてなしのお蕎麦屋さん
先代のお父様が尾山台に久寿屋を構えたのは昭和28年。息子さんである現在の店主、斉藤貞義さんが引き継いで盛り立ててきたお馴染みのお店です。斉藤さんは当然地元っ子。ただ、商売の大変さを身近に見て育ったので、若い頃は、絶対、跡を継ぎたくなかったそうです。「大学に行かせてくれたら継ぐって約束しちゃったんで、仕方なく…」などと、おっしゃいますが、お話を伺うほどに、とても研究熱心でお客さま思い。それは蕎麦づくりやサービスなど、お店のすべてにゆきとどいています。
「蕎麦は二八(蕎麦粉8:小麦粉2)、蕎麦もおつゆもすべて自家製です。水はアルカリイオン水。特に出汁がよくとれますね。蕎麦づくりは時間と温度が重要。ベストの状態で出すために工夫をしています」
粉は北海道産などから厳選。お蕎麦は適温適湿で熟成するため、毎日早朝から、出る数を予想して仕込みます。魅力的な創作メニューも、奇をてらうのではなく「お蕎麦として美味しい」ことを重視して考案、野菜天や揚げ餅をのせたお蕎麦など、他店の先駆けになったものも多いそうです。
「店は毎日が勝負。美味しいと思ってくだされば、お友達やご家族とまたいらしてくださる。ご家族連れのお客様もよくいらしてくださいます。お子様向けのものは特に作っていないのですが」と斉藤さん。
料理の彩りはもとより、お店の雰囲気づくりにも、「色彩」を意識しているそうです。店頭ののれん、座布団、そして、お蕎麦の蒸篭(せいろ)の色は、四季に合わせ、春=萌黄、夏=黒、秋=柿、冬=朱と替えています。せいろはそのために色を指定して塗りで仕上げた特注品です。
頑張り屋の斉藤さん、その原動力はご両親の存在だったとおっしゃいます。先代であるお父様は空襲でお店を失い、大病をされ、それを助けるお母様も本当に苦労をされた、そのご両親が、「自分を育てて良かった、と思ってくれるように。そう思ってここまで頑張ってきました」と話してくださいました。
丁寧なおもてなしの気持ちに満ちた久寿屋さん。その想いが愛されるお店を支えています。